国際的な親子関係をめぐる問題
まずは大きく次の2つに分類されます。
1. 嫡出子(法律上婚姻している両親から生まれた子)
2. 非嫡出子(嫡出子でない子)
嫡出子としての親子関係
たとえば夫が日本人で、妻がアメリカ人の場合、子が嫡出子となるかどうかについてはどこの国の法律をみればよいのでしょう。
これについては通則法の28条が規定しています。見てみましょう。
通則法28条
「夫婦の一方の本国法でこの出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする」
つまり、出産当時の夫婦の本国法をみて、どちらかの法律によれば「嫡出子」となるのであれば「嫡出子」、としています。
このような「複数のどちらをみてもよい」という場合を「選択的連結」といいます。
嫡出子は法律的に保護されていますから、生まれてきた子の立場からすれば、できるだけ嫡出子として認めてあげるほうがいいわけです。
「出生の当時」とあります。
これは、出生後に両親の国籍が変わっても、子が嫡出であるかには影響を与えないと考えるからです。
また、もし夫が出生前に死亡していた場合には、28条2項により「死亡当時の夫の本国法」で考えます。
非嫡出子としての親子関係
両親が法律上の婚姻状態になくとも、二人の間で生まれてきた子に対しては親子関係は生じます。
このとき婚姻関係のない親から生まれてきた子を「非嫡出子(婚外子)」といいます。
これには、世界各国で様々な制度があります。
「出生」という事実だけで非嫡出子と認める場合(事実主義)もあれば、「認知」という意思表示や手続きが必要な場合(認知主義)もあります。
また、そもそも嫡出子・非嫡出子を区別しないという国もあります。
そこで、非嫡出子制度について、どこの国の法律にしたがって考えるかを決定する必要があるのです。
では、例のごとく通則法をみてゆきましょう。この条文は少し複雑ですが、3つに分けて考えましょう。
1. 出生による親子関係の成立
2. 認知による親子関係の成立
3.認知そのもの
1.出生による親子関係の成立
通則法29条1項前段
「嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の関係についてはこの出生当時の父の本国法により、母との間の関係についてはその当時における母の本国法による」
つまり、結婚していない両親と親子関係になるかどうかは、父との関係では父の本国法、母との関係では母の本国法をみます。
それぞれの国の法律で「非嫡出子」として親子関係となることが認めれれば、父母それぞれにつき非嫡出子となります。
2.認知による親子関係の成立
通則法29条1項後段
「子の認知による親子関係の成立については、認知の当時における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件であるときは、その要件も備えなければならない」
つまり、認知によって親子関係が成立するためは、父母の本国法によって認められていることだけではなく、認知当時の子自身の本国法でも非嫡出子となることが認められている必要がある、としています。
これは、認知によって親子関係が認められれば、子は親の扶養義務をおうため、子の同意などによって保護を図ったのでしょう。
こうした特定の人の保護を図った特別の条文を、「セーフガード条項」といいます。
3.認知そのものの成立
通則法29条2項
「子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知の当時における認知する者又は子の本国法による。この場合において認知する者の本国法によるときは同項後段の規定を準用する。」
つまり、(出生後の)認知は、出生時の父母それぞれの本国法で認められていなくとも、認知時の父母の本国法、もしくは認知時の子自身の本国法で認められていれば、それだけで認知が成立するとしています(選択的連結)。
これは、子の利益のため、できるだけ認知の成立を認めようとする意図があるからです。
ただし、認知した父母の本国法によるときは、認知した当時の子の本国法の要件も備える必要があるとしています(セーフガード条項)。
なお、父が出生もしくは認知の前に死亡したときは、その「死亡当時」の父の本国法を、「出生当時」もしくは「認知当時」の父の本国法とみなします(通則法29条3項)
認知の方式
認知の手続きについては、通則法34条に定めています。
通則法34条1項
「第25条から前条までに規定する親族関係についての法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法による。」
つまり、「方式」についても「成立」と同じ法によるとしています。ただし・・・
通則法34条2項
「前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は有効とする」
として、加えて、法律行為を行った地の法律に適合した方式で行ったばあいもOKとしています。
「準正」という手続
準正とは、もともとは非嫡出子(婚外子)だったのが、認知後の両親の結婚(婚姻準正という)や、両親の婚姻中の認知(認知準正という)、国家機関の嫡出宣言などによって嫡出子の身分をえることをいいます(民法789条)。
このような準正の制度についても、各国バラバラなので準拠法が問題となります。
通則法30条
「子は、準正の要件である事実が完成した当時における父もしくは母または子の本国法により準正が成立するときは、嫡出子の身分を取得する。」
つまり、父の本国法、母の本国法、子の本国法のうちいずれであってもよいとしています。
これは、子の保護のため準正ができるだけ認められやすくためものです。